
はじめに
インドネシア・バイオ炭協会(Indonesian Biochar Association)は、ハシム・ジョヨハディクスモ氏をはじめとする環境保護に注力するグループによって、2012年に設立されました。この協会は、農業廃棄物の管理、土壌の健康改善、気候変動の緩和に対する持続可能な解決策として、バイオ炭の利用促進を目的として設立されました。創設者たちは、バイオ炭がもつ大きな可能性に着目し、その理解を深め、生産と活用を広げていくための基盤づくりに取り組もうと考えました。(バイオ炭素の詳しいシステムについてはこちらをご覧ください。)
1,500本を超える科学論文を分析した調査によると、バイオ炭は農業にさまざまな好影響をもたらすことが明らかになっています。平均して、植物の生産性が16%、作物の収量が13%、水の利用効率が20%向上し、さらに土壌中の有機炭素量は39%、リンなどの有効な栄養素45%が、バイオ炭を土壌に施用することで増加するとされています。さらに、バイオは温室効果ガスの一種である一酸化二窒素などの窒素酸化物の排出を11%削減し、植物による重金属の吸収量も29%抑えることができると報告されています。
インドネシア・バイオ炭協会は、バイオ炭の生産技術の向上と、バイオ炭の効果への理解を深めることを目的とした研究を支援しています。また、農業の専門家、農家、政策立案者を対象に、研修プログラムやワークショップなどの学びの機会も提供しています。
バイオ炭技術の開発や導入を後押しする政策提言も行っており、政府機関と連携して、バイオ炭を活用したプロジェクトに適した制度やインセンティブの整備を促進しています。さらに、バイオ炭製品の市場を開拓し、生産者が円滑に買い手と出会えるよう支援するほか、バイオ炭のさまざまな産業への活用も積極的に促進しています。バイオ炭に関するプロジェクトの具体例はこちらからご覧いただけます。
このような取り組みを通じて、業界内の知見の共有や新たなパートナーシップの形成を促しながら、インドネシアにおけるバイオ炭技術の発展と普及において、中心的な役割を果たしています。
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インドネシアにおけるバイオ炭による二酸化炭素除去(CDR)の推進
気候モデルの最新シナリオによると、気温上昇を1.5℃以内に抑えるすべての方法において、炭素除去(CDR)技術の導入が不可欠とされています。必要とされる除去量は、今後の温室効果ガス排出削減のスピードに大きく左右されます。
バイオ炭は、炭素除去の有望な手段として世界的に注目されており、インドネシア・バイオ炭協会の取り組みによって、大きな進展が見られています。炭素除去技術の中でも特に、バイオ炭は炭素を長期間にわたって土壌に閉じ込めることができるため、気候変動の緩和に効果的な手法とされています。同協会は、この特性を活かし、バイオ炭を通じた炭素の吸収・貯留を推進することで、インドネシアの温室効果ガス排出削減目標の達成に貢献しています。
バイオ炭には、土壌の肥沃度や水もちを良くする働きがあり、農業の生産性を高める効果があります。協会の支援により、バイオ炭を使う農家が増えており、これによって肥沃な土壌づくりや作物の増産が実現しています。また、作物の茎や葉などの「農業残渣」をバイオ炭に加工することで、廃棄物処理の問題にも対応しています。農業残渣を焼却せずに再利用することで、大気汚染や温室効果ガスの排出を減らす効果もあります。また、農業活動において、「どこで・どう生産されたか」を把握するトレーサビリティ(traceability/追跡可能性)の重要性に注目が集まっています。トレーサビリティの課題おいても、バイオ炭を自社のバリューチェーン内で活用する「インセッティング(insetting)」という仕組みの導入も進められています。
バイオ炭による炭素除去は、経済的・環境的・社会的なメリットを兼ね備えた、包括的な解決策です。特に、気候変動の影響を最も強く受けている地域においては、気候正義(climate justice)の観点からもバイオ炭が非常に重要視されています。実際に、2022年のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)報告書でも、地球温暖化の緩和が最も必要な地域に、バイオ炭技術を届ける意義が強調されています。
バイオ炭により、農家や地域コミュニティに新たな経済的な機会が生まれています。バイオ炭の生産や販売は、農家への追加の収入源となり、地域経済の活性化につながります。また、バイオ炭の施用で土壌環境が改善され、作物の生育が促進されることにより、化学肥料への依存を減らすことが可能です。こうした取り組みにより、農業の環境負荷が軽減されるだけでなく、気候変動による不安定な気象条件にも適応できる農業の実現にも寄与しています。
実績と今後の方向性
インドネシア・バイオ炭協会は、さまざまな取り組みを通じて、バイオチャーの普及に大きく貢献してきました。しかし、依然としてバイオ炭には、一般層からの認知度の低さ、生産にかかるコストの高さ、政策的な支援の不足など、普及を妨げる課題が残されています。同協会は、これらの課題に対応するために、啓発活動や教育の強化、効率的な生産技術の普及、コスト効率に優れた研究への支援、そして政策提言の推進に取り組んでいます。また、政府機関、研究機関、金融機関、炭素クレジットの基準機関、プロジェクト開発者、業界関係者とのパートナーシップ構築も、特に重視しています。
インドネシア・バイオ炭協会は、持続可能な農業と気候変動対策の分野において、インドネシアにおけるバイオ炭推進の最前線に立っています。研究活動、政策提言、能力強化の取り組みを通じて、バイオ炭の可能性を最大限に引き出し、土壌の健康改善、農業廃棄物の適切な管理、炭素の貯留を促進しています。これにより、インドネシアにおける持続可能な農業と気候変動対策の前進において、同協会は重要な役割を果たしています。
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